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FEATURE / 渡辺真史(BEDWIN&THE HEARTBREAKERS)

Feature/渡辺真史

The role of ZINE
渡辺真史とZINEの接点。


Interview&Text:Yuichiro Tsuji

Mēdeia2.0』では「ISSUE N°04」として、小松浩子によるZINEを2023年10月に発表。そのマーチャンダイズとしてリリースされるのが、〈BEDWIN & THE HEART BREAKERS〉とコラボレーションしたTシャツだ。デザイナーを務める渡辺真史は、このプロジェクトについてどんなことを感じ、どんな想いでデザインを手掛けたのか? その真相を知るべく、彼のアトリエを訪ねた。

渡辺真史

1971年生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学を卒業後に渡英。帰国後、2004年に自身のブランド〈ベドウィン〉をスタートさせる。2007年にブランド名を〈ベドウィン & ザ ハートブレイカーズ〉に改名。現在、同ブランドディレクターおよび、〈DLX〉代表を務める。


渡辺真史

もっとシンプルに共有、共鳴したいっていうことなんじゃないか。

ー今回のコラボレーションは『Mēdeia1.0』のオファーを受けて生まれたと聞きました。話があったときに、どんなことを思ったか教えてください。

渡辺:すごく真面目に情熱を持って話をしに来てくれました。それに対して自分も真摯に応えたいと思ったのが率直な気持ちですね。『Mēdeia1.0』って、社会課題をアートやファッションのプラットフォームで発信しているから、いつも自分が持っている視点とはちょっと違う。ぼくらは“ファッション対ファッション”のコラボレーションが常だから、普段とは違うことができると思ってワクワクしたのもありますね。

ー実際に『Mēdeia1.0』に対してはどんな印象をお持ちですか?

渡辺:お話をいただくまで何をやっているメディアなのか全然知らなくて。だけどZINEを見せてもらって、熱いことをしているなと感じました。世の中のメインストリームとは異なるベクトルで発信をしているというか、そういうところに自分は好感を持ちました。それは自分がむかし持っていたもの、好きだったものと似ていて、だけど最近は見かけることが少なくなったものでもあって。

渡辺真史

ーむかしというのは90年代くらいの頃ですか?

渡辺:SNSが流行るもっと前。もっと詳しく言えば、インターネットが普及する前の時代かな。すごく人間味があってアナログな時代のことですね。決して懐古的になったりとか、感傷的になっているつもりはなくて、それ以降もおもしろいものはたくさんあるんだけど、あの時代の楽しさみたいなものはずっと覚えているんですよ。あの頃って自分でフィジカルなものをつくって表現している人がたくさんいたけど、いまはすごく減っているでしょう。

ー自分でZINEをつくって友達に配ったり、MIXテープやCDなんかもそうですよね。

ZINE

渡辺:そういうのが多かったですよね。ZINEに関して言えば、コピー機の誕生がすごく大きい。それまでは写植屋さんがコラージュしてそれを印刷してっていう工程を踏まなければいけなかったけど、プリント屋さんとかコンビニで簡単にコピーができるようになったから。それでZINEをつくるというのは、SNSのアカウントをつくるような感覚だったのかもしれないですね。

自分の場合はファッションやカルチャーが好きで、『FACE』や『i-d』といった雑誌を見たりしていました。そこで情報を得る一方で、友達がつくったZINEを見たりもしていました。バンドをやっていたりとか、アートが好きな人たちがつくっていた印象です。

ーたしかにライブハウスへ行くと、誰かがつくったZINEとかが置いてありました。

ライブハウス

渡辺:そうそう。みんな、自分が好きなもの、いいと思うものを共有したいんだよね。そうゆう気持ちって誰もが持っているんだと思います。人間の性というかね。

ーそれは承認欲求とはまた別のものなのでしょうか。

渡辺:承認欲求という言葉には、あんまりピンとこないですね。もっとシンプルに共有、共鳴したいっていうことなんじゃないかと思います。好きなものを一緒に楽しんで、「これ、いいよね」って言い合いたい。その瞬間にひとりじゃないって思えるというか、ホッとできる。そういう気持ちが生まれた瞬間に仲間意識に繋がるじゃないですか。みんなそれをしたいんだと思うんですよ。

フォトTeeではなく、ZINE Tee。

フォトTeeではなく、ZINE Tee。

ー今回のコラボレーションでは、どんなTシャツをつくりたいと思ったんですか?

渡辺:小松浩子さんのZINEを『Mēdeia2.0』でつくったということで、ぼくとしてはそれを着るものにすることによってコラボレーションができる。なので、ZINE自体をTシャツに落とし込むにはどうしたらいいかということを考えました。1ページだけを切り取るというよりは、ZINE全体の世界観をTシャツに落とし込みたいと思ったんです。

ーだからZINEの中にあるページが、Tシャツの中でランダムに配置されているわけですね。

コラボレーション

渡辺:そうですね。読めるTシャツみたいなものをイメージしました。このTシャツを見た人が、ZINEそのものに触れられるというか、気づけるようにしたかったんです。Tシャツもメディアといえばメディアじゃないですか。好きなものをプリントして、その情報を周りに伝えて、それに感化された人たちがコミュニケーションを生む。Tシャツもそういうツールになるんですよね。バンドTeeとか、アートTeeとか、いろんなTシャツがあるんだけど、Tシャツはあくまでもキャンバスという認識があったので、だったら色んなページをプリントしちゃえと思って。

風景

ー今回は小松浩子さんという方の作品をフィーチャーしていますが、ご覧になられたときにどんなことを思いましたか?

渡辺:すごく重たく受け取りました。ページをめくっていると、彼女が伝えたいメッセージみたいなものがたしかに存在していることがわかるんです。ZINEの中の1枚の写真を見て感銘を受けるというよりは、その集合としての重みをすごく感じました。

ー一般的にフォトTeeというと1枚の写真がプリントされることが多いと思うんですが、今回のTシャツのおもしろさはZINEのページがランダムに配置されているところにあると思うんです。

渡辺:フォトTeeではなく、ZINE Teeっていうね(笑)。自分としては『Mēdeia2.0』として、どんなことを発信したいのか。そういうことを強く意識して作業に取り組みましたね。実際のZINEはシルバーのカバーで、すごく凝ったつくりになっていたし、その感じも表現したかったんですよ。こういうZINEのマーチャンダイズって、版代を削りたいから、1枚の写真や絵をフィーチャーしてプリントすることが多いんです。だけどそれはつまらないというか、よっぽどその冊子のことが好きじゃないと欲しくならないじゃないですか。ぼくはTシャツ単体としておもしろいものをつくりたかったし、Tシャツを見てZINEを見てみたいって思う人が生まれるようにしたいって思ったんですよ。

イメージ

ー具体的に、作業をする上で大切にしたのはどんなことですか?

渡辺:ZINEを眺めるときに、全ページを同じ熱量で見ることってないじゃないですか。興味があるところは詳細に眺めるし、そうじゃないところは流して見てしまったりもする。今回のTシャツをデザインするに当たって、そうゆう動作をクローズアップしたいと思いました。フィーチャーする部分と、そうじゃない部分のリズムをつくりたかったというか。

それって編集の作業に似ているのかなって思ったりして。ZINEや雑誌をつくっている人って、いつもそういうことをしていると思うんですよ。自分の場合はカタログをつくったことがあるから、そういう感覚を思い出しました。だから作業自体はすごく楽しかったですよ。一回で終わるのがもったいないなと思ったくらい。今後もこういう取り組みがあるとおもしろいんじゃないかな。ぼくに限らず、いろんなデザイナーと作業することによって、いろんな視点が生まれると思います。

ZINEをつくるという行為そのものが尊いものになる。

ー渡辺さんご自身は武蔵野美術大学を卒業されていますが、アートとの接点はどんなところから生まれたのでしょうか?

渡辺真史

渡辺:アートを通して、答えがないものを探す作業ができますよね。例えば数学には明確な答えがあるけれど、美術にはそれがない。そういう部分に自分は興味があって、大学に入ったんです。好き嫌いはあるんだけど、それって言語化するのが難しい。批評家たちはそれをするのが仕事なのかもしれないけれど、自分の場合はそうゆう曖昧な部分に惹かれるんです。

いまでも日常の中にアートがあるといいなと思えるし、ないと寂しい。大学のときにいろんなアーティストについて勉強したんですが、自分の場合は知っている人、もしくは身近なアーティストの作品のほうが見ていて得られるものが多いですね。

ー文脈がつくりやすいですよね。

渡辺真史

渡辺:そうですね。あとは同じ時代を生きていて、自分たちが見たものが投影されているほうが理解しやすいですよね。近くにいる人、さらに言えば知っている人がつくった作品を見ると、「こんな感じで世の中を見ていたんだ」っていうことを発見できる。その視点がおもしろかったりするんです。そういう意味で時代を切り取るとか、そうした役割をアーティストは担っているように思います。

ー一方でZINEは、そうしたおもしろいアーティストを発信する役割を担っていると思います。

渡辺:「こんな人がいるよ」っていう情報を伝えるということですからね。そうやって共有したいっていう人がいないと埋もれてしまうアーティストもたくさんいると思う。だからそうゆう役割を担っている人もまた、評価されるべきですよね。

渡辺真史

ー今後、ZINEのカルチャーはどうなっていくと思いますか?

渡辺:どんどん貴重になっていくと思います。一種のトレンドとして若い子たちが自分もZINEをつくってみたいと思ったり、昔から好きでつくり続けている人もいると思うけど、絶対数としては先細りの傾向にあるように思います。だからこそ、価値が上がるんじゃないかな。それはマーケットの価値というよりも、表現方法としての価値という意味で。

つまりは“好き”という本質の部分を如何に形にするか。自分の好きなものを人に勧めるっていう行為そのものがすごく大事なことのようにいまは思いますね。

ただでさえ紙媒体が減ってきているし、何百年経ったときに、もしかしたら絶滅しているかもしれない。もちろんそこに記されている中身も重要ではあるけれど、それをつくるという行為そのものが尊いものになるような気がします。