FEATURE / コマツミドリ(イラストレーター)
Think About Each Life
イラストレーターのコマツミドリが願う、命を思いやる世界。
Interview&Text:Yuichiro Tsuji
「元旦の出来事が風化しているように感じる」。能登半島地震から半年が経過しようとしているいま、金沢を拠点に活動を行うイラストレーターのコマツミドリさんがそう嘆く。
2024年、元旦に起こったマグニチュード7.6を観測する大きな揺れは、多くの家屋を倒壊させ、日本海沿岸の広範囲を津波の危機にさらし、土砂災害や火災、液状化現象も発生するなど、甚大な被害をもたらした。6月になった現在も、まだ避難所で生活している人々が多数存在している。
こうした事態を受けて、我々にはどんなことができるのだろうか? 危機的状況に対する周囲の反応は、当事者たちの気持ちを意識しながらも、さまざまなエゴが行き交うことで本質を得ることができないことがほとんどだ。
『Mēdeia1.0』では、コマツミドリさんとのコラボレーションアイテムを発表し、その売り上げの10%を能登半島地震の義援金として被災地へ寄付を行っている。Tシャツやトートバッグなどには、可愛らしい花のイラストがプリントされ、“Beautiful First”というメッセージが添えられている。そのイラストに込めた想いを知るべく、彼女にインタビューを敢行した。
コマツミドリ
1995年生まれ、石川県金沢市在住。雑誌、広告、ファッションブランドや大型フェスへのイラスト提供など、幅広いフィールドで活動を行うイラストレーター。媒体へのイラスト提供のみならず、自身の作品も多数発表し、各地で展示も行っている。
人間を含む生き物に対して優しく接せられる人が増えたらいい。
ーコマツさんはもともと絵を描くのが好きだったんですか?
コマツ:母親が絵を描くのが好きで、若い頃にイラストレーターとして活動をしていたんです。その影響もあって、私自身も小さな頃からずっと絵を描いていて。中学、高校もそれが続いていたので、高校卒業後はデザイン系の短大に進学することになったんです。
就職も金沢の企業にデザイナーとして入社したんですけど、1年で倒産してしまって…。その後に私が憧れていたデザイン事務所に入れることになり、「よし、バリバリ働くぞ!」って思っていた矢先に妊娠が発覚して結局その事務所も半年で辞めることになったんです。そこからフリーランスのイラストレーターとして自分のペースで働くようになりました。いまはクライアントワークとして制作のお仕事を引き受ける一方で、自分の好きな絵も描いて発表をしています。
ーコマツさんの絵はポップなタッチが特長的ですよね。
コマツ:小さな頃から絵本を読んだり、海外のアニメを見るのが好きで、そうゆうところに影響を受けていると思いますね。イラストのタッチや色使いもそうですし。
ー最近は虫や動物などの絵も増えてきています。
コマツ:むかしは人物ばかりを描いていた時期もあったんですが、子どもが産まれてから、自分が幼い頃に見ていたものと触れ合う機会が増えました。それで当時のものを懐かしむ気持ちが生まれて、私はこういうのが好きなんだって再度実感したんです。
ーお子さんの目線になっていろいろ考えることが多くなったということですよね。
コマツ:そうですね。子どもが生まれる前は下ネタばっかり描いているときもあって(笑)。子どもっていう純粋な存在と正反対のモチーフじゃないですか。最初はそのギャップに私自身がすごく苦しんだ時期もあるんです。自分のイラストを好んでくれているファンの方々は、そうゆうモチーフを求めているんじゃないか? って過剰に考えちゃったりもして。
だけど、私は絵を描くのが好きだし、悩んで描けなくなるのは違う。周りのことは気にせずに好きなものを描けばいいやって、一度吹っ切れたことがあって。それからは自由なマインドで絵と向き合う一方で、子どもたちはもちろん、自分と同じ若いお母さん、お父さんに響く絵も描きたいと思ったんです。
ー社会性が生まれたような感覚なのでしょうか。
コマツ:そうかもしれません。メッセージ性とかも考えるようになりましたね。私は動物や生き物が大好きで、金沢で生まれ育ったので虫とか小さな存在も身近にいたんです。虫がニガテな人って多いと思うんですけど、それってそのまま自分の子どもたちにも受け継がれていくじゃないですか。「虫は気持ち悪い」って親が思うと、子どもも同じように認識してしまう。私の親はそうじゃなくて、家の中に虫がいても「迷い込んじゃっただけだから、お家に返してあげよう」って外に逃すことを教わって。
地球上の生き物って人間も含めてそれぞれ役割があると思うんです。捕食関係もあって生きていく上で対等ではないけれど、小さなものでも命があることに変わりはないじゃないですか。私は小さな虫でもかわいいって思える気持ちが幸せを生むと思うし、それをみんなに伝えたい気持ちが芽生えたんです。人間を含む生き物に対して優しく接せられる人が増えたらいいなと思って、そうしたことをイラストで伝えるようになりました。
前まではそんなこと考えもしなかったけど、それによって描くモチーフが思い浮かんだり、アイデアが湧いたりすることが増えましたね。
ーファンの方々の反応にも変化はありましたか?
コマツ:モチーフが変わったことでファンが離れるということはないですね。まえに東京の古着屋さんで展示をしたことがあったんですけど、当時の毒っぽいモチーフを好んで見に来てくれた方も、最近の展示に遊びに来てくれるし、うれしそうに作品やグッズを買ってくれたりしていますね。私が変わったことに気づきながら、発信するメッセージを感じ取ってくれているんだと実感しています。それで気持ちが暖かくなるし、背中を後押しされた感覚がありますね。
ーご自身の中で表現の幅が広がった感覚があるということですか?
コマツ:そうですね。モチーフに迷ったからといって自分自身の承認欲求を満たすために迎合するのはよくないし、偽って描くのは違う。クライアントに求められて描きたくない絵を描いていた時期もあったんですけど、そうゆうことはしないようにしていますね。
当たり前なことはないんだなって強く思う。
ー今年の4月に『Mēdeia1.0』とのコラボレーションを発表しました。その経緯を教えてください。
Mēdeia1.0:こちらからコマツさんにお声がけをしました。もともと彼女の絵のファンで、なにか一緒にできたらいいなと思っていたんです。それでお話を聞いていると、すごく誠実でメッセージもしっかりしていて、信頼できる方だなと思ったので。
ー今回のコラボレーションでは、売り上げの一部を能登半島地震の義援金として被災地へ寄付していますよね。
Mēdeia1.0:そうですね。コマツさんの地元が石川県なので、今回はドネーションの企画にしようと思いました。それでお花をモチーフに描いて欲しいとお願いをして。そこに“Beautiful First”というメッセージを添えてもらいました。能登の美しい景色を取り戻したいという願いを込めて。
コマツ:今回2種類のイラストを提供したんですが、どちらもガーベラを描いています。「お花」というお題をいただいて、いろいろ花言葉とかを調べたんですが、ガーベラには「希望」や「前進」といった前向きでパワフルなメッセージがあって今回の企画にぴったりだと思ったんです。
ー地震が起こったとき、コマツさんはなにをしていましたか?
コマツ:家族と一緒に実家へ帰って、親戚同士で新年を祝っていました。それで楽しい時間の余韻に浸りながらクルマで自宅へ戻っているときにスマホのアラームが鳴ったんです。そして運転中に地震が起こり、周りのクルマがハザードを点灯して停車をしたり、大きな駐車場に入って状況を見極めようとしていたりして、お祝いムードが一気に正反対の方向に沈んだのをいまでも覚えています。子どもたちも驚きや不安を隠せない様子でした。私たちは家に帰るのをやめて、高台のほうへクルマで向かったんです。そこにもたくさんのひとたちがいましたね。
結果的に私たちが住んでいる地域は能登に比べたら被害は少ないんですが、全体を考えると本当に深刻なことが起こってしまったんだと息を飲みました。能登に住んでいる友達とは連絡が繋がらないし、インスタのストーリーズにも「連絡が取れないひとがいるので、見かけたら教えてください」っていう投稿ばかり上がってて。
ーそのときに当事者として、どんなことを思いましたか?
コマツ:現地の人たちの声が間近に聞こえてくる中で、物資を集めたり、なにかできることはないかと考えました。だけど、私たちが足を動かすことで、今度は自衛隊の救援作業を妨げてしまう可能性もある。実際に能登半島に繋がる道が塞がって通れなくなってしまったりもして、自分の住んでいる地域に帰れないという声や、渋滞に何時間も巻き込まれて大変な思いをしたという声も聞いていたんです。私はなにもできずにモヤモヤした気持ちを抱えたんですが、一度踏みとどまって具体的になにができるかを整理するようにしました。
ー1月末にポストカードサイズのイラストを1000円で販売し、その売り上げのすべてを義援金として寄付されていましたよね。
コマツ:1月27日から2月11日まで展示を行って、その期間中に253枚のイラストが売れて、それをすべて能登町に寄付しました。
ーそうした具体的な行動を通して感じたことや、思ったこと、気づいたことはありますか?
コマツ:地震が起こってから、家族をはじめ、いろんな人と話をしたんですが、やっぱり他人事で終わらないんですよね。展示をしているあいだに被災地へ行ってきたという方がいて、それでも気丈に振る舞っている様子が伝わってきて胸を打たれました。
その時期にポータルサイトを通じた募金のスクショがインスタのストーリーズですごく上がっていたんです。私はそれを見て、すごく悲しい気持ちになったのを覚えています。もちろんそうやってサポートをしてくれるのは本当にありがたいことなんですが、「それをやっておしまい」みたいに感じてしまうんです。中にはサポートの一環としてそうしてくれる方がいらっしゃるのはわかりますし、そう感じ取ってしまう自分も捻くれていると思うんですが…。
だけど、募金をして、わざわざその結果をスクショに撮って、SNSに上げる行為というのが、自分自身のためにやっているようにしか感じられなくて、それ以外にもできることを考えて欲しいと思ったのが本音です。
ー金沢で生活を送っていて、いま現在どんなことを感じていますか?
コマツ:風化されている感覚はありますね。観光客がどんどん増えて、それ事態はいいことなんだけど、「あの頃は大変だったでしょ」っていうムードを感じるというか。私はいま夫のお店で仕事をしているんですが、能登ではまだまだ避難所生活を送られている方々がたくさんいるんです。お客さんの中には実際に現地で支援活動をしている方もいるんですが、その方々と話していると「自分にもまだできることはあるんじゃないか」って考えさせられます。それで能登のカフェに自作の絵本型のZINEを150部寄付して子どもたちに見てもらえるようにしたり、買い物をするときに能登産の食材などがあれば進んで選ぶようにしています。そうやって地道にできることを継続することが大事なんじゃないかと思うんです。
ーそうした想いがご自身の作品に影響与えることはありますか?
コマツ:当たり前なことはないんだなって強く思います。『EVERYDAY is BiRTHDAY』っていう作品をつくったことがあるんですけど、毎日なにかの命が生まれているんですよね。そして、その命は当たり前に生まれたものではないし、自分自身もいま生きているのは当たり前ではない。生きていてムカつくことって本当にたくさんあるけれど、やっぱり感謝の気持ちは絶対に忘れちゃいけないし、毎日を大事にしながら生まれてきたこと、産んでくれたことにありがとうの気持ちを持って日々を過ごしたいと改めて感じさせられています。
ーひとつ一つの命が大事ということは、多くの人が忘れかけている心だと思います。
コマツ:そうですよね。それを常に思い続けるって簡単なようで、すごく難しいことなんだなと思います。世の中は本当にいろんな欲求であふれているから。
Mēdeia1.0:我々としては、今回のコラボレーションで終わりではなくて、彼女と一緒に絵本をつくりたいと思っています。ただ、すぐに作れるかといえばそうじゃないので、来年あたりには出したいですね。
コマツ:絵本をつくることは自分自身の夢でもあったので、ちゃんとしたものをつくりたいです。もうちょっと自分の好きなことを突き詰めていきたいです。