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FEATURE / 小松浩子

Feature/小松浩子

BETWEEN BIRTH AND DEATH from < Mēdeia2.0 > ISSUE N˚04


Photo&Text:Hiroko Komatsu

小松浩子

フォトグラファー,フィルムメーカー

神奈川県生まれ。30代後半から写真を始め金村修氏の師事を受ける。写真を壁に飾るという従来の展示方法ではなく、床や壁に写真を直接貼り付けたりと、空間全体を作品とする手法が評価され2018年に木村伊兵衛賞を受賞。また8mmカメラで撮影した映像作品を発表する等、国内外で精力的に活動を続ける。


有機物、無機物を問わず、生まれたものは必ず死に向かう。動物であれば、誕生・成長から老化 に転じ、最終的に死に至る。機械であれば、生産・設置され稼働することで劣化し、最終的に機能停止(=死)に至る。それは家族、友人仲間、学校、会社、病院、政党、スポーツクラブ、村や都市、群集や公衆、教会、国家などの社会集団であっても変わりがない。誕生には希望が、死には静寂が伴い美しくすらあるが、誕生と死の間には荒廃があらわれる。荒廃には測定基準が無く量や大きさ深さなどを数値として示すことは出来ないが多寡はあり、例えば一歳よりは八十歳の人物のほうが未来への希望がより少ないと考えられること、建築されて一年と五十年の施設では後者のほうがより廃墟に近いことから、死への接近の度合いが荒廃の一つの尺度となり得ると考えられる。

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死とは、命がなくなること、生命がなくなること、生命が存在しない状態、または機能を果たせないこと、役に立てないこと、能力を行使できない状態を指すが、テクノロジーの進歩により死に接近した状態を引き延ばすことが可能になった。かつて病気などの脅威は自然現象であり、人はそれに対して免疫システムや自己修復プロセスで対処してきた。しかし産業テクノロジー・システムを生きる現代人における病気の脅威は、テクノロジーによって生産される食物や住環境の変化、労働など人工の要因と複雑に絡み合い、免疫システムや自己修復プロセスで対処しきれない状況に置かれている。例えば我々の身体が血液を浄化する機能を失えば血液を浄化する機械と、呼吸が困難になれば呼吸を補助する機械と、自身の決断ではなく専門家の決定により接続させられる。死への接近の度合いで荒廃を測るとするならば、最大限の荒廃を継続して生きることになる。

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地球より重い人命の救済のため医療は進歩し、機械へ置き換えが可能な身体の部位は拡張し続け、限りなく死に近い状況を長期に渡って生きることが可能になった。身体が寿命を迎えても脳の機能を機械に引き継ぐ技術の実用も射程に入ってきた。脳から意識を抽出して機械に移し替えるという単純な方法ではなく、開頭手術で脳と機械を接続し数ヶ月から数年かけて脳と機械を一体化させる方法を採る。人間の脳は左右に分断されており神経繊維で接続されているが、意識は片方のみではなく左右それぞれに保持されるため、脳梗塞などにより片方の機能が破壊されても片方が機能していれば意識を継続することが出来る。脳と機械の一体化が完了していれば、例え人間が寿命を迎えて脳が機能しなくなっても、途切れることなく意識は機械に引き継がれる。引き継がれた意識が身体に代わる機械をコントロールすることで永遠の生も可能となる。

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産業革命とその結果により発展してきた現代のテクノロジーはそれ自体が一つの総合システムであって、例えば医学は化学、物理学、生物学、コンピューター科学などと細部に渡り依存し合って発展しているため、身体機能をテクノロジーに委ねた人はテクノロジーの恩恵無しには生存することが出来ない。自分自身で生存に関わる決定をする自律した生から遠く離れた永遠の荒廃を生きることになる。死ぬ権利とは、死ぬ時期を決定する権利、死に様を選ぶ権利のことを指し、広義には自発的な積極的安楽死、医師による自殺幇助、自殺する権利、間接的安楽死を含み、狭義には医学的治療の拒絶・停止によって患者が死に至る状態のときに治療を拒否・停止する権利を指すという。世界の宗教の多くが、伝統的に自殺を戒めてきたのは、人間の命は原則的に神のものだという信仰に基づいている。また医学においても1981年に世界医師会が出したリスボン宣言では、医師は尊厳死という患者の権利の一つを与えるために努力するべきであるという旨の主張がなされたが、何をもって患者の尊厳が保たれるのかについて統一的な見解は未だ現れていない。

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テクノロジーの発展による管理社会を予期したジル・ドゥルーズは、肺病を患い人工肺で生存していたが、1995年に機械化され限りなく死体に近い自身の身体を自宅の窓から投げ捨てた。ドゥルーズにとって投身自殺とは、産業テクノロジー・システムによる荒廃から離脱し自律した生を奪回するための唯一の方法であり、彼はその自律した死によってもたらされた静寂を手に入れた。